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翌朝、目を開けると、白いガーゼのようだった蚊帳に、何やら無数の黒い小さな斑点が
「えーーーっ!!蚊帳の中に蚊!?」
一瞬にして眠気はぶっ飛び、慌ててファスナーを開けてベッドから飛び降りた。
驚きと少しばかりの恐怖を落ち着けてから、蚊帳に近づいて見ると、それは見慣れた蚊ではなく、見たことのない小さい黒い虫だった。
次の瞬間、急に我に返った。
「何これ?」
まさか?と手足を確認すると、そのまさかの赤い斑点が、無数に足についていた。それを確認した途端、いきなり痒みが寝起きの私を襲った。
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本当は、ビーチフロントの野外テーブルで、優雅に朝食を食べるはずだった。
しかし実際は、ポリポリ足を搔きながら、かっがりしょぼくれてオレンジジュースを飲むだけの朝食になった。
家主にこの話をすると、
「あー、蚊帳をスルーしてくる虫ね、あれ僕も昔、ここに来た当初はよく刺されたんだ。でも、もう何回も刺されて免疫ができちゃって、今は全然刺されない。」
なんだか納得の説明だった。
この時、虫の名前は聞いたのか?聞かなかったのか?覚えていないが、体験談を聞いて、その出来事を消化してしまった。
そもそもなんで私は虫に刺されることになってしまったのか。
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それはカリブ海からの帰り道だった。
内陸に戻ったものの、静かな海でのんびり過ごしたいと、別の海を目指した。
十数時間バスに揺られ、目指しているのはきっとこのあたり?と、バス停とは言えない、道の途中でバスを降りた。
周りには何もなく、当時はスマホのない時代だ、紙の上の地図にない場所とはわかっていたが、自分が一体どこにいるかもさっぱりだった。
そこで降りたのは、私のほかにドイツ人の女の子と、ヨーロッパのどこかの男の子の3人。
するとドイツ人の女の子が聞いてきた。
「二人はこれからどこへ行くの?」
男の子は「ぼくは友達と落ち合う約束していて、こっちへ行くんだ」と道を指さした。
2人が揃って私を見るので、
「私は何も決めてない、というか、ここがどこだかもよくわかっていない」
というと、すかさず彼女が言った。
「ビーチへ行くんでしょ?じゃ、一緒においでよ。私、友達の知り合いのところに泊まるんだけど、そこに一緒に泊まれると思うから」
友達ではなく、友達の友達?のところへ、これまた通りすがりの私まで引き連れて大丈夫だろうか?と、一瞬頭をよぎったが、
「えっ、ほんと!いいの?」と、ちゃっかり彼女と一緒に歩き出した。
歩き出してから、お互い自己紹介をした。
順序が逆だが、ひとり旅だとこういうことが多々あるのだ。さんざん話した後で、「で、お名前は?」と思い出したように聞くことが。
ひとりだったら、迷子確定のような、道なき道を、草木を掻き分けながら歩いていくと、匂いと空気感で、海がどんどん近づいて来るのを感じた。
波の音がかすかに聞こえ始めたころ、道が開け、カリブ海とは全く違う、穏やかな海が広がった。海岸から、斜面になっている場所に家が見えた。
「あそこ、バルコニーみたいなのあるでしょ」
彼女が指さした先に、オープンエアのバルコニーが見えた。
どんな家なのかも、どんな人が友人なのかも、何もわからなかったが、めちゃくちゃワクワクしていた。
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はたして、到着した私たちを暖かく迎えてくれたのは、白髪ロングヘアの家主であるアメリカ人男性であった。きっと今の私くらいの歳だったのではないかと思う。
いきなり通りすがりのアジア人が泊まることになったのに、彼は全く意に介していなかった。
一緒に来た彼女は、寝袋と蚊帳を持参していたので、オープンエアのバルコニーで寝ると言う。
暑いから布団もいらないし、「私もその辺で寝るので大丈夫」と言ったが、
「いやいや虫とか色々出るから、下に簡易的だけどベッドがある部屋空いているから、そこで寝るといい」と、
部屋とはいえ、これまた半分野外のような部屋へ家主が案内してくれた。
蚊帳のかかった小さなベッドを前に、
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「虫がいるから、ファスナーを開けて、中に一緒に虫が入っていないか確認してからファスナーを締めて寝てね」
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そう助言をもらった。
そして、目覚めた翌朝の衝撃的な出来事があれだ。
衝撃的ではあるけれど、なぜこのことだけ、何十年も経った今でもはっきり思い出せるのだろう?と思った。
ひとり旅で虫に刺されたり、病気になったりしたことは他にも何回もある。思い出そうとすれば思い出せはするが、この話とは違う。
こんなに鮮明に覚えているのは、その出来事が、人の優しさとセットになっているからではないか。
今までひとり旅をしてきて、思い出は沢山あるけれど、一番に思い出すのは人の暖かさだ。
もちろん、旅という限定的な出来事の中でのことだし、何の利害関係もないからかもしれない。
それでも、だからこそ、それが本当の人の姿なのかもしれないと思った。












