昭和のマンションに、赤いキッチンが来た日

赤いキッチンにするつもりは、全くなかった。

昭和のマンションがボロすぎて、赤いキッチンどころか、リフォームできれいにできることすら、想像が難しい。

部屋全体のイメージから、モダンな現代のキッチンが不似合いすぎて、リフォームに及び腰になっていたのだ。

山林建築断念から数年間、私は地方に滞在していた。

この先どう生きて行けばよいかわからなくなってしまったし、都会の街も、昭和のマンションも母を思い出させ、居たたまれない。

・・・

けれど、2年ほど経ったころ、ほんの少し気持ちが動き「いつまでも放置しておいてはいけないな」と考えられるようになった。

家をきれいにすれば、気持ちもスッキリするはず?そう思い、これまた友人の旦那さんに相談した。

「家直して住んだらどお?手伝うから自分でやれば?楽しいよ」

その一言で、今度はキッチンリフォームプロジェクトが始まった。

・・・

「で、どういうキッチンにしたいの?」

どういうと言われても、そんな理想を並べる想像力も財力もなかった。

「日本の家の、きれいなシステムキッチンに興味ないし、ひとりだからワンルームにあるようなちっちゃいやつでいい。なんならガスコンロもいらない」というと、「ガスはあったほうがいい」と説得された。

とにかく、ネットやショールームを見て回り、イメージを育てることにした。

が、結局、今ある昭和のキッチンが想像力の邪魔をしたからか?

やはり、ワンルームマンションにあるような、1口コンロと小さい流しだけの、Sサイズキッチンみたいなのでいいなと思った。キッチンもスッキリするし、カウンターとかと合わせたらちょっと面白い空間をつくれるのではないか?

早速、第1案を伝えると、「できるけど、小さすぎ、使いにくい。絶対にもっと大きいほうがいい」

「だけど、あのでっかいシステムキッチンに興味ないし、ひとりだから必要ない。お金あってもつけたくない」と言う頑なな私。

すると、「シンクも蛇口も、換気扇も、自分の好きなのを選んでつければいい、別に日本のだけで選ぶ必要はない。キッチンキャビネットやカウンターは、IKEAならヒメの好きな感じに近いのができるから、ちょっと見てくるといい」と言われた。

・・・

「えっ?シンクも蛇口も自分で選んでいいの?」急に当たり前のことに気がついた。

私の頭の中には、知らずのうち、固定観念で固まっていた。

普通にリフォーム会社に依頼する、わがままを言う空気感ない、あの流れ

「このご予算でしたら、こちらのシステムキッチンがおすすめです」とカタログの中かから、備品などを選ぶやつ、この前提で考えていた。

が、自分でやるからには、予算も、わがままを言えるラインもあるものの、自分で考え、選ぶということができるのだった!

俄然楽しくなってしまった。

全く違う視点で、再び、ネットでキッチンを探したり、ショールームへ行ってみたり、IKEAにも通い始めた。

・・・

今までIKEAへ行っても、キッチンなど見たことがなかった。私には無縁だったからだ。

私自身ずっと独身の賃貸マンション暮らしで、数年ごとに転々としていて、家というものにあまり興味を持たずに生きていた。

しかし、ひとり旅で海外の色んな所に泊まり、出張ネイル、ハウスコールという形で、沢山のお客様のお宅へおじゃました経験から、興味はなかったが、好きなタイプのキッチンはあった。

IKEAで、はじめてキッチン売り場を回って、「おー、これならいいかも」と思った。

しかし、何かいまひとつピンとこない。

というより、IKEAのあのキッチンが、いったいどんなふうに昭和の家にフィットするのか考えにくかった。

それに、キッチンの造り自体は好きなのだが、白、グレーといった、今どきなちょっと素敵でおしゃれなキッチンは、うちにも私にも不似合いであった。

しかも、山林建築同様に、あれもこれもと夢が膨らみ、予算はどんどん膨らんで行った。

なかなか決まらないキッチンプラン。

そんな時、友人の旦那さんからすごいオファーをもらう。

「うちに使ってない扉があるから、それよかったらあげるよ、赤だからすごくかわいい」

「えー!うそうそ!ほんと?いいの?」めちゃくちゃ嬉しいびっくりオファーに、テンションが一気に上がる。

が、次の瞬間、急上昇したテンションが一気に下降し始める。

はて?赤?

赤は大好きな色、赤がかわいいのはわかる。しかし、どう考えても、白やグレー以上に、赤なんて昭和の家には不似合いだ。そこだけ離島のようになってしまう。

煮え切らない私であったが、「絶対大丈夫!かわいいのができる!」という旦那さんの強気の一言で、赤いキッチンプランが完成したのであった。

この時点で、100%赤いキッチンを受け入れていたか?と聞かれると、答えはNOである。

システムキッチンやモノトーンなイメージに比べれば、断然赤のほうがいいし、私らしい。

が、それと、うちにフィットするかは話が別だ。このときはまだ完成した姿を全く想像できていなかった。

・・・

キッチンプランは決まった。

ここからが大忙しだった。

施工業者さんが段取りをしてくれて、お茶菓子を用意するだけでは済まないのである。

しかし、自分で色々選べる自由がある楽しさに、大変さはどこかへ行ってしまう。

この時間は本当に楽しかった。

自分でリフォームをするなんて、はじめての経験だ。

10代のころ、部屋の壁をピンクに塗り替えて、友人をびっくりさせたくらいしかリフォームエピソードがない私。

次から次へと出てくる「はじめての経験」が面白かった。

ただ、センスがないくせに好みがあるため、調べたり選ぶのに時間がかかり、工期ぎりぎりに、いや作業寸前に物が運ばれ、ヒヤヒヤの連続であった。

物が到着し、中を確認すると、微妙なものもあった。時間があれば返品交換するだろうものも、「まー、しかたない」と取り付けた。

オンラインでおすすめされた床材の接着剤が、全く素人向けではなく、悪戦苦闘。

ホームセンターで、「あ~あれ貼りにくいでしょ、こっちのほうがいいですよ」と言われたものに変えてみると、「えっ、なんでこれをすすめてくれなかったの?」と、一瞬オンラインショップを恨みそうになってしまった。

仕上がった床は、老眼で目が見えづらくなってよかったと思う出来であった。

木材や鉄の切断で、大量の粉塵が蔓延し、火災報知器が鳴り響き、慌てて警察へ電話したり、

「レールライトはスマホで点けられるよ」と変な親切心でスイッチを省いてくれたが、これが全くもって使いづらく、のちに撤去してもらったり。

リフォーム会社さんにお願いする完璧な仕上がりとはほど遠い、あちこちに涙と笑いの痕跡残るキッチンとなった。

しかし、完成したときの喜びは、自分が参加しただけにものすごく大きかった。

「やったー!」と、両手を上げ、ハイタッチするその姿は、まるではじめて自転車に乗れた時のような、歓喜の瞬間であった。

それから、家にいるときはずっとキッチンで過ごしている。

思いがけず、今の私を支えてくれる居場所ができたのだった。

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