明日もワッフルが焼けると思っていた。

キッチンカウンターの上にワッフルメーカーが置いてある。

✦ ✦ ✦

その日は突然やってくる。

わかっているはずなのに、すぐ忘れてしまう。

のど元過ぎれば、というやつだ。

今回もそうだった。

・・・

なんとなく、いつもと焼き加減が違う、そう感じていた。

私の食卓を支える家電、ワッフルメーカー。

そう、毎日のように使っていると、それが色んな意味で当たり前になり、何の疑いもなく、明日も問題なく使う前提で生活している自分がいる。

危うい兆候はあった。

かみ合わせ部分はすでに壊れて、カチッと閉まらなくなっていた。

もうそろそろ駄目になってしまうかも、と一瞬頭をよぎったものの、それは大きな洗濯ばさみで挟んで一件落着。

締りが悪いだけで、焼き具合に全く支障はなかったからだ。

カバンのファスナーが壊れてしまったけど、荷物は十分入るから、みたいな感覚。

たいした問題ではないなと、いつの間にか閉まらない不具合さに慣れ、閉まらないのがデフォルトになっていた。

まるで元から洗濯ばさみで挟む仕様だったかのように。

その後も順調にワッフルにクリスピーポテト、トルティージャサンドなどなど、私の食卓を彩っていた。

が、ある日、

朝食のワッフルを焼こうと、生地を流し入れ、いつもの心地よい出来上がり音が聞こえるのを待っていた。

「ピーピーピー」とあのかわいい音が聞こえ、心躍らせながら、蓋を開けた。

???

えっ?なんか違う。。。

表向きは、なんか焼けた風を装っているが、あきらかに違う様相を醸し出してた。

トングでワッフルに触れると、要らぬ弾力ある仕上がり。

取り出すと、片面はキツネ色風、片面はまだまだこれから感溢れる色合いであった。

いや、これはたまたまのハプニング、

2枚目のほうは?とフリップさせるも、結果は同じ。

ま、まさか!?

がっかりである。

正直ゴミ箱へ投げ捨てたい衝動に駆られたが、グッとこらえ、オーブンに放り込んだ。

計量が大の苦手な私は、目分量で生地を作る。

いつもの経験値でほぼ完璧に作ってきたのに、魔が差したのか?寝ぼけていたのか?

時にアレンジしまくりなので、配合がよくなかったな、そう思った。

なぜかわからないが、壊れたという案が浮かばなかった。

その後3日ほど不出来なワッフルをかみしめ、ようやく3日目にして気が付いた。

これ、なんかおかしくないか?

ダイヤル調整して、一番ベーシックなやつを作ってみた。

果たして、、、

その出来上がりはさらに悪化していた。

壊れた。

ようやく、機械が壊れたと認識した。

ショックである。

家電量販店がひしめく現代にあって、なんならオンラインで朝注文すれば夜届く現代にあって、ワッフルメーカーはすぐには届かないのだ。

「これください」とすぐに手に入らないのに、毎日使う必須家電である。

「パンケーキでいいじゃないか」という声が聞こえてきそうだが、ワッフルじゃないと駄目なのだ。ワッフルがいい、ワッフルが好きなのだ。

がっくりと落ち込んだのもつかの間、今度は新しいワッフルメーカー探しに夢中になっていた。

すぐにポチリと購入するも、到着は数週間後。

何を根拠に、明日も同じ1日が訪れると思っているのか?

そして、ある夜のことを思い出していた。

・・・

夜中に、膝の痛みで目が覚めた。

左ひざの内側が痛い、それから1時間ごとくらいに痛みで起き、ぐっすり眠れなかった。

「なんだろう?」

転んだ覚えも、急に酷使した覚えもない。

最近、足や腕などに、身に覚えのないあざを作っていることがある。

ネイリスト時代、年配のお客様が腕や足にあざを作って来ることがよくあった。

「どうされたんですか?」と聞くと、「知らないのよ」「覚えてない」と本人全く自覚なし。

こういうことがしょっちゅうあり、歳を重ねると、様々な感覚が鈍ることがあるらしいと思っていた。

だから最初にドキッとしたのは、膝よりもそっちであった。


とうとうついに、足をぶつけたのに気づきもしない、覚えてもいない、老いの始まり。

足の痛さより、そちらの気づきのほうに恐怖を抱いた。

が、膝の痛みは、次の日も次の日も続いた。

歩きすぎか?

私は歩くのが大好きで、普段平均1万歩ほど歩く。

あまり歩きすぎもよくないと聞いて、少し控えるようにはしていた。

それよりも腰痛のほうが辛いので、腰が悪すぎて膝にきているのかもしれないと思った。

病院へ行くと、筋肉が腫れている、膝を使いすぎでは?とのこと。

接骨院へ行き、鍼治療をしても変化なし。

結局、別の整形外科で「初期の変形性膝関節症」と診断された。

病名を聞いて納得した。

ワッフルメーカーと膝。

一見、接点のない出来事なのに、どちらも同じだった。

「その日」は、突然やってくる。

だから、頭の片隅に薄っすらあることを、
「そのうち」にしておくのが少し怖くなった。

その日は、ワッフルメーカーだけに来るわけじゃないのだから。

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