音楽が距離を消したとき

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前夜のクラブで聞いたレコードが欲しくて、店内を探していた。

爆音の中で聞いた曲目はすっかりまぼろしとなり、翌朝私の頭に残っていたのは「Stevie」という名前だけだった。

昨夜のちょっとソワソワするような夜の街とは全く違う印象になった、太陽まぶしい健全でトロピカルな街を歩きレコード店へ向かった。

手掛かりは「Stevie」だけ。

私は音楽的才能が皆無なため、歌を歌ったり、楽器を弾いたりすることはできない。もちろん音感なんていうものも持っていない。

が、聴くことに関しては、好きな曲を、延々と聴き続けられるという特技がある。

東京にいるときは、夜遊びのその足でレコード店へ向かい、酔った勢いで友人と歌を歌い、「この曲ありますか?」と聞いていた。

そのたび、店員さんは嫌な顔せず、「これかな?」とレコードを出してくれた。「私たちの歌で当てるとは!さすがプロ!」そういつも友人と感心しきりだった。

が、昼間の異国で、うる覚えの歌をひとり歌うわけにもいかず、Stevieを手掛かりに探し始めた。

まるで財布でも落としたかのような勢いで、なんかの捜査中のような空気感を巻き散らかしていたのだと思う。

「何か探しているの?」

見ず知らずの人が声をかけてきた。

事の成り行きを話し終えるまもなく、彼女は秒でそのレコードを持ってきた。

そして、Stevieについて事細かに解説してくれた。

一瞬店員さんなのか?と疑ったが、私と同じ「ただ音楽が大好き」な人だった。

「ただ音楽が好き」なだけで繋がった私たちは、そこからカフェへ移動し、一緒にブランチをしながら、音楽の話とともに楽しい時間を過ごした。

✦ ✦ ✦

旅の途中、乾燥した街を歩き回り、のどの渇きを癒すため、慌ててミニマートに入った。

砂漠の水に手を伸ばす勢いで冷たいジュースのボトルに手をかけた瞬間、懐かしい曲が店内に流れ、その場に立ちすくんでしまった。

音楽の力とはものすごいもので、一瞬にして心がなつかしさに奪われていく。

歌えないのに小さく口ずさみながらしばらくただ、ただ、音楽を聞いていた。

のどの渇きはどこかへ行ってしまった。

急に我に返り、どっぷりと自分の世界に入っていた自分に気がついた。

「あ、まずい」とあたりを見渡すと、すぐ近くに同じように歌っている人がいた。

いつもは、人に話しかけられるほうが断然多い私だが、このときばかりはおもわず声をかけた。

「やっぱり?」
「この曲知ってる?」

「めちゃくちゃなつかしい。ビックヒットだった曲も大好きだけど、この曲大好き」

「そう、あの曲○○もカバーしていて、そっちもいいよね」

「そう!それも好き。あと○○も、、、」

たたけば響く太鼓のように曲名が次から次へと出てくる。

初対面なのに、まるで一緒に青春時代を過ごした友人と話しているようだった。

さんざん立ち話をして、ミニマートを出て飲んだジュースは、どこか懐かしい味がした。

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