夢のプレゼン資料を作り、ふるさと回帰フェアで相談もした。参考書も読んだ。
「これで準備万端!」と思っていた私だったが、いよいよ現実と向き合う時がやってきた。
そもそも所有する土地に建物を建てることはできるのか?どこから何を調べればいいのか?
無知なくせにやる気だけはMAXだった私は、市役所の職員の方を頼りに、人生初の本格的な土地調査に乗り出した。
はじめて自分の土地を見に行った日
2021年10月26日(火)
この日、私が握っていた情報は「登記簿」と、切れ端のような古い「公図」のみ。
そう、恥ずかしながら土地を所有しているのに、一度も足を踏み入れたことがなかったのだ。
住所と地目「山林」という情報だけで、このプロジェクトを始動させた無謀さは、今思い返して自分でもビックリする。
まず法務局で最新の公図を取得してから市役所へ。
「山林に自分で家を建てて、こんなスペースを作りたいんです!」
都心部のにぎやかな役所とは違い、静かで広い平和な空気感流れるスペース。
若干場違い感を感じる、家族のない中年女性の、半ば冗談とも思える無謀な計画に、真剣に耳を傾けてくださった職員の方。ものすごく嬉しく、本当に心強かった。
市役所で電気・水道を確認―意外とあっさり解決?
建築どうのという前に、まず土地の利用制限やインフラについて確認せねばならない。
市役所のシステムで、Googleマップでもヒットしなかった土地を確認すると、近隣に民家がポツリとある。想像していた山奥ではなかった。
私の計画は完全オフグリッドを目指すプランではないため、公共インフラは重要だ。電力供給や水道確保に問題があれば、許可・コスト・工事すべてが大問題になる。
確認の結果、最重要とも思われる【電気・水道】が通っていることを確認(ガスはプロパン使用予定)。
「第一難関クリア!?」とホッとした瞬間だった。
このときは、まだ何も知らなかったのである。
本当の問題はこの後に待っていることを。
電動自転車で山へ―呑気に出発
公共インフラ確認でほっとした私は、半ば観光気分でランチを済ませ、いよいよ所有する土地を見に行った。
車がないので電動自転車をレンタル。
しかし当然ながら、車社会の地方でチャリをすっ飛ばしている人などいない。
途中、多数のバイカー集団に紛れながら山間をぐるぐる迷い、アップダウンを繰り返してようやく到着。
後に地元の方々から「えっ!自転車で行ったの!?この辺りはみんな車飛ばすから危ないよ!」とアドバイスをいただくことになる。
そういうことは先に知っておきたかった。
ジャングルのような土地―境界線はどこ?
山林という地目から人里離れた山奥を想像していたが、周りには民家もある田舎な風景。想像と違ってテンションはなぜか少々下降する。
しかし、静寂に包まれたその場所は、東京では考えられない空気感が漂う。
木々が揺らめく音と自分の足音だけの別世界に、一瞬にして魅了されてしまった。
そして、接道沿いに大好きなマリーゴールドの花が咲いているのを見つけ、これは何かの運命に違いない!と、一気にテンションが爆上がりする。後にご近所の方が撒いてくださったものと判明。
10月はまだ木々が茂る季節。
接道はあるものの中に入る道はなく、中の様子が全くわからない。
第一印象はブラジルのジャングルといった感じだった。
そして最大の疑問:「一体この場所の、どこからどこまでが私の土地なのだろう??」
標高500メートルちょいの場所だが、空は近く、キラキラ力強い太陽は本当に美しかった。
散歩好きな私は、乗ってきた電動自転車を停め、バックパックを土地に放り投げ、あたりを散策した。
木陰に入るだけでヒンヤリ、まったく違う空気が漂う。当たり前だが、東京のど真ん中では触れることのない空気感だ。
まるでウォーキングメディテーションのように、あたりを歩いていると——
突然「クマ出没危険!」の看板に遭遇。
速攻でビビって散策終了。
日が暮れる前にお茶でも飲んで帰るか、と電動自転車に乗ろうとしたら、電池切れ。
標高500メートル程度とはいえ、電池の切れた電動自転車で登る(押す?)急な坂道は、ちょっとしたスポーツ並みのハードさだった。
重ね図という救世主に出会う
この疑問——「大体の土地を把握する」——を解決してくれたのが【重ね図】だった。
簡単に言えば航空写真なのだが、「重ね図」という大層な響きに最初は戸惑った。
「Googleマップでよいのでは?」と思ったが、今回のように住所検索でヒットしない土地の場合、おおよその境界線もわかるこの重ね図は非常に有用だった。
市役所で申請して取得し、職員の方がシステムと照らし合わせて土地を確認してくれることで、ようやく所有する土地概要を把握できた。
この時点では、とりあえずざっくりと土地の場所を把握するのが目的。より詳細な調査は、本格的に建築を進める段階で必要になるが、事前調査の第一歩としては十分だった。
山林ならではの法的制約を調べる
土地の概要が把握できたところで、次に確認すべきは山林特有の法的制約だった。
鳥獣保護区の確認―本当に山だったと実感
「鳥獣保護区」という名前を初めて聞いた時は、所有する土地で自由に闊歩する動物たちを想像し、一瞬、言葉を失った。
鳥獣保護区では、野生動物の生息地を守るために人間の活動が制限される。特別保護地区の場合、建築物の新築には事前の許可が必要になる。
普段、野生動物など意識することのない生活をしてきたため、「そうか、こういうことも確認する必要があるんだな」と思った。
実際に現地を散歩すると「クマ出没注意!」「イノシシ!」などの看板を多数発見。ご近所の方からは「お宅の土地から鹿が出てきた」という情報も。
「山」と言われてもピンと来ていなかったが、本当に山だったのだ。
埋蔵文化財包蔵地―大学のシラバスに出てきそう
もう一つ確認が必要だったのが「周知の埋蔵文化財包蔵地」というもの。
これは古代の遺跡や歴史的な遺物が埋まっている可能性がある地域のこと。該当する場合、発掘調査が必要になったり、建築に制約が生まれたりする可能性がある。
教育委員会文化財保護課にメールで問い合わせたところ、幸い該当しないことが判明。
都市計画地域―建築申請の要否が決まる
さらに「都市計画地域」の確認も必要だった。
この指定によって建築基準法の適用範囲が変わり、建築確認申請の要否が決まる重要な要素だ。
調べれば調べるほど、新しい専門用語が出てくる。でも不思議と、知れば知るほど面白くなってきた。
夢が膨らむ帰り道
これらの法的制約をクリアし、インフラも問題なさそうということで、帰り道の私は完全に夢の世界にいた。
「あの場所だったら、自分の思う暮らし、やりたいことができる!」
作ったプレゼン資料通りのことが実現する気満々で、エキサイティング度はマックス。
しかし、この後一気にテンションが地に落ちる現実に向き合うことになるとは、この時は1ミリも想像していなかった。
無知の暴走は、まだまだ続くのだった。
—第4話に続く—




