第4話:代替案を探し続けた日々―そして山林建築プロジェクト断念―

土地調査と法的制約をクリアし、「これで建築に向けて前進できる!」と意気込んでいた私。

しかし、建築の具体的な検討を進めるにつれ、次から次へと予想もしていなかった問題が浮上してきた。

特に深刻だったのが「水の問題」。そして建築確認申請の複雑さ、さらには現実的なコスト問題。

順風満帆だと思っていた山林建築プロジェクトに、暗雲が立ち込め始めた。

「浄化槽?」都会育ちの衝撃

「はっ?浄化槽が必要?下水来てないの??」

昭和世代でありながら、生まれてからずっと水道をひねれば水が出て、汚水は勝手にどこかへ流れていく生活を当たり前にしてきた私。

「浄化槽」という名前すら身近に聞くことなく生きてきたのだ。

「えっ!なんか大きな水道管っていうか、パイプを伝って勝手に流れていくものでは?」

このアホな疑問が口をついて出そうになった。

完全に都市部の発想で山林建築を考えていた自分の甘さを痛感した瞬間だった。

浄化槽設置に〇十万+年間維持費

市役所で相談した際、「浄化槽の設置が必要になります」と言われた時の衝撃は大きかった。

浄化槽とは、下水道が整備されていない地域で家庭の汚水を処理するための設備。つまり、各家庭で汚水処理をしなければならないということだ。

しかも浄化槽は設置するだけでなく、定期的なメンテナンスも必要。年間数万円の維持費がかかることも判明。

ただし、調べてみると浄化槽設置には市からの援助があることもわかった。設置費用の一部を補助してくれる制度があり、これは少し救いだった。それでも初期費用として数十万円は覚悟しなければならない。

水道引き込みだけで150万円超の衝撃

さらに深刻だったのが、水道の引き込み問題だった。

接道部分には水道管が通っているものの、山林の奥まで引き込むには工事が必要。しかも土地の地形や距離によって工事費用は大きく変わる。

見積もりで判明した高額費用

実際に水道工事の見積もりを取ってみると、想像を遥かに超える金額が提示された。

地形が複雑で重機が入りにくい、岩盤があるため掘削が困難、距離が長いため配管費用が高額…理由は様々だったが、水道引き込みだけで150万円超の見積もりだった。

「小さな家を建てるだけなのに、水道でこんなにかかるの?」

この時初めて、山林建築の「見えないコスト」の大きさを実感したのだった。

建築確認申請の複雑さに直面

水道問題と同時進行で調べていたのが、建築確認申請だった。

建築確認申請とは、建築基準法に適合しているかを事前に確認してもらう手続き。これなしには合法的に建築できない。

頭がクラクラしそうな申請書類

申請書類を見た瞬間、専門用語のオンパレードに頭がクラクラした。

「建蔽率」「容積率」「斜線制限」「接道義務」…建築基準法という法律の複雑さは、素人の想像を遥かに超えていた。

しかも山林という特殊な条件では、通常の住宅地とは異なる制約も多い。傾斜地での建築、擁壁の必要性、排水計画…考慮すべき要素は無数にあった。

設計事務所への依頼が必須と判明

「自分でできるかも」と甘く考えていたが、現実的には設計事務所への依頼が必須だった。

建築確認申請だけでも数十万円、設計料も含めると100万円近い費用が発生することが判明。まだ建築工事すら始まっていないのに、既に数百万円の出費が見えてきた。

「福音」ではなく「幅員」だった

市役所での相談で「ふくいん4メートル以上必要です」と言われた時、最初は「福音?神様の?」と一瞬思った。

正しくは「幅員(ふくいん)」。道路の幅のことだった。

接道義務という制約

建築基準法では、建築物は幅員4メートル以上の道路に2メートル以上接していなければならないという「接道義務」がある。

私の土地は接道しているものの、その道路の幅員が微妙なラインだった。測量してみないと正確にはわからないが、もし4メートルに満たない場合は「セットバック」といって、土地の一部を道路として提供する必要がある。

つまり、有効に使える土地面積が削られる可能性があったのだ。

福音どころか、また新たな問題が増えた。

代替案を次々と模索する

山林建築の費用があまりにも高額になることが判明し、代替案を検討してみた。

トレーラーハウスという希望

「トレーラーハウスなら建築確認申請不要で安く済むかも」と思い、資料を請求し、問い合わせ、見学もして調べてみた。

しかし現実は甘くなかった。トレーラーハウスを設置する場所まで運搬する道路の問題、そして電気・水道の引き込みは結局必要、定期的に移動させる法的義務などなど…むしろ面倒で費用もかかることが判明。

イーロン・マスクのタイニーハウスBoxablという夢

次に目をつけたのが、イーロン・マスクが住んでいると話題になっていたBoxabl(ボクサブル)というアメリカの会社のタイニーハウスだった。

工場で作って折りたたんで運べる、約500万円で買える小さな家。
内装も私の好みにピッタリ、これだ!と思った。

早速メールで問い合わせた

「日本に輸送できるのか?」
「納入までどのくらいかかるのか?」
などなどの質問を送った。

返信は来た。丁寧だった。でも結論は——

「日本への輸送は可能だがコストは高額になる」
「現在注文が殺到していて、1年~2年待ち」
「為替も影響するため、いくらとは言えない」

夢は、また一つ消えた。

ちなみに2026年に入り、Boxablは100万円台の家を発表したと話題になった。
一瞬、「これだったら置けたかも?」と頭をよぎりはしたが、あの時諦めなければ…とは思わない。当時の私には、それでも高すぎた。

コンテナハウスという光

最後に検討したのがコンテナハウス。「工場で作って運べば安いかも」運んでただ置くだけでしょ?という発想だった。

ところがコンテナを搬入する道路が狭すぎて、大型トラックが入れないことが判明。クレーンでの搬入も地形的に困難で、結局この案も断念。

「面白そうだから」と始めたプロジェクトが、いつの間にか難易度の高いパズルになっていた。

家を建てる前に家が建ちそうな費用の現実

様々な調査と見積もりを重ねた結果、見えてきたのは想像を遥かに超える費用だった。

– 水道引き込み工事:150万円超
– 浄化槽設置:50万円程度
– 設計・建築確認申請:100万円近く
– 電気引き込み工事:数十万円
– 造成・基礎工事:地形により大幅変動数百万
– 建築工事:材料費高騰で見積もり困難

建物を建てる前の段階で、既に数百万円の出費が確定。しかも2021年から2022年にかけて、ウッドショックと呼ばれる木材価格の高騰が直撃。建築費用の見積もりは青天井になった。

都会育ちの淡い幻想

さらに現実的な問題として浮上したのが、実際の田舎生活だった。

当たり前だが、車がないと生活できない立地、冬は雪で道路状況が悪くなる、

「自然豊かな環境でのんびり自分らしく暮らす」という理想と、実際の生活の不便さとのギャップは大きかった。

そして何より、私が本当に求めていたのは「定住」ではなかったことに、このころからうっすら気づき始めていた。

2022年11月、自分で決めた断念

2022年春、建築費用の最終見積もりが出た時、私は愕然とした。夢から現実に引き戻された瞬間だった。

当初の予算を大幅に超える金額。しかも材料費高騰により、さらに上振れする可能性が高い。

「面白そうだから」という軽い気持ちで始めたプロジェクトは、いつの間にか私の経済力を遥かに超える巨大な計画になっていた。

何度も何度も、自分に問いかけた。

「本当にここに家を建てたいのか?」
「ここに定住して、幸せなのか?」
「これは、私が本当に望んでいる人生なのか?」

答えは、徐々に見えてきていた。

そして2022年11月、ついに山林建築プロジェクトの断念を決意する。

誰かに止められたわけではない。
誰かにアドバイスされたわけでもない。
自分で調べて、自分で考えて、自分で決めた。

だから、後悔はなかった。

むしろこの断念が、実は最良の選択だったことに気づくのは、それから時間が経ってからのことだった。

—第5話に続く—

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