第1話:母の最後の言葉で始まった山林建築―53歳の無謀な決断―

2021年、思わぬきっかけで山林に家を建てることになった。
2022年11月、あえなく断念。

結果だけ見れば、時間とお金を無駄にしただけの話だ。
でも今では、あれで本当によかったと思っている。

なぜ家に全く興味のない私が、山林に家を建てる気になったのか。
そして、なぜ断念してよかったと思えるのか。

その顛末を、5回に分けて書いてみることにした。誰かの人生のヒントになるかもしれないし、
同じような価値観を持つ人と繋がれるかもしれない。何より、自分の思考を整理したかった。

母の遺言「自由に、好きなように生きなさい」

きっかけは、母の遺言だった。

2020年1月、「私がいなくなったら、どこでも好きなところへ行っていいからね。自分の思う人生を、自由に、好きなように生きなさい」そう言い残して、唯一の家族である母が亡くなった。この言葉には、母と私にしかわからない深い思いが込められている。

それから1年。喪失感の中で過ごした日々を経て、ようやく母の遺言を実行に移す気持ちが湧いてきた。

残りの人生、その遺言通りに生きようと決めた。

海外をフラフラしたい―でも「家」が問題

かねてより「色んな場所を転々としながら生活したい」と秘かに思っていた私は、
「数年海外をフラフラしよう。とうとうその時がきた!」と実行に移そうとした。

が、ここで問題にぶつかる。

半年?数年?海外を点々とするとして、現実に向き合うと、旅に出る前にやらなくてはならないことが山ほどあった。

身辺整理をきちんとしてからでないと、気持ちよくフラフラできない。

では、どうするのがベストなのだろう?

色々悩み、様々な可能性を模索した。そして気づいた。一番大きな問題は「家」だった。

家族のいない53歳、ひとり身の住所問題

家族がいる人なら、家がなくても住所を置かせてもらったり、何かあった時に頼れる人がいたりするかもしれない。

しかし、一人っ子で両親はすでになく、結婚もしておらず、子供もいない。加えて当時53歳。文字通り「ひとり」な私は悩んだ。

今まで、どんな人生の決断も誰にも相談せず、自分ひとりで決めてきた。しかし今回ばかりは、自分ひとりで決め切れず友人夫婦を頼ることにした。

私をよく理解している友人夫婦に相談したところ、「家はあったほうがいい」という結論になった。

住民票をどうするか、荷物はトランクルームに入れて、郵便物は…などなど色々考えたが、いずれにしてもコストが発生する。

ならば、小さくとも自分のスペースを持ったほうがよい。

海外をフラフラしたいとはいえ、海外移住願望があるわけではなく、計画性のない私のことだ、半年出かけると言っておきながら、3ヵ月で帰りたくなるかもしれないし、逆に数年このまま旅を続けたくなるかもしれない。

友人の提案「山林に家を建てたら?」

そこで友人夫婦から提案されたのが、「山林に家を建てる」という発想だった。

この一見突拍子もないアイデアは、「祖父から譲り受けた山林をどうしたらよいか?」と相談したことが発端だ。

売ってお金にできるような場所でもないため、寄付したりできないものか?色々と模索していたが、なかなか簡単ではなく悩んでいた時でもあった。

それに加え、私が「ひとりだから地方の小屋とかでいい」みたいなことをぼやいていたからだ。

「山林に家を建てる」という友人の旦那さんのひらめきに、正直、最初は「え?」と思った。
家なんて建てたこともないし、建築に関する知識は皆無。

でも話を聞いているうちに、だんだん面白そうに思えてきた。

それに、土地を買う必要がないなら、予算もぐっと抑えられる。なんなら、プレハブ小屋を置くだけでもいいのでは?そんな安直な気持ちで、一度も足を踏み入れたことのない祖父の山林に、家を建てる計画が動き出した。

建築用語が全くわからない―知識ゼロ以下からの出発

意気揚々と「山林建築プロジェクト」を始動したものの、初っ端で、「なんだかすごいことを始めてしまったかもしれない」と気付くこととなる。

建築に関する知識がゼロどころかマイナス。

「基礎」って何?「建蔽率」とは?「接道義務」??、素人には理解不能な文字が並んでいる。

こうして、私の建築知識習得の日々が始まった。

毎日のようにネットで建築関連の記事を読み、YouTubeで家づくりの動画を見る日々。

「建築確認申請」「都市計画法」「建築基準法」…見たこともない単語が次々と出てくる。

そして段々わかってきたのは、「山林に家を建てる」というのは、想像していたより遥かに複雑だということだった。

でも不思議と、知れば知るほど面白くなってきた。

この歳になって、全く新しい分野を一から学ぶなんて、考えてみれば贅沢な話だ。

母の遺言通り、「自分の思う人生を、自由に、好きなように生きる」第一歩として、
とりあえず突き進んでみることにした。

建築ど素人の私に家が建てられるのだろうか?

この軽い決断が、後にどれだけ大きな問題を招くか、まだ何も知らなかった。

—第2話に続く—

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